レビー小体型認知症と「座敷わらし」

 こんにちは。東望大久保医院の大久保 仁です。

 昨日、面白い論文を読みました。出典は神経内科という雑誌で、「Lewy小体病における幻覚とザシキワラシとの類似点ー民俗学史料への病跡学的分析の試みー」という題で、駒ケ嶺朋子先生という方が筆者です。

 「えっ、ザシキワラシってΣ(・□・;)」、あの東北の古い家に出る子供の神様?妖怪?ですよね。

 その座敷わらしのお話と、認知症の中でアルツハイマー病についで多い(一次性認知症の約2割程度と言われている)レビー小体病(レビー小体型認知症)の幻覚に類似点があるのかどうかを検討しているのがこの論文です。

 栃木県出身の84歳の女性で、68歳の時にパーキンソン病と診断され投薬を受けていた方を筆者が診察し、そのお話の中で「夜、子供が寝床に入ってくる」などの幻視体験などを聞いた際にそのお話が、東北地方の座敷わらしのお話と似ていると思い調べてみたとのことである。

 柳田國男の「遠野物語」で有名な遠野地方で55話、遠野地方以外の東北の23話の説話の中での座敷わらし105例のうち、座敷わらしの細かい様子が記載しているものを調べています。状況は、寝ている時、35例と覚醒中16例です。

 座敷わらしの姿が見られたもの34例、声だけ聞いたもの18例、気配のみ3例でした。多くは場所は座敷の暗い環境での体験でした。寝ている時で9例(56%)でくすぐられるなどの触覚体験を伴っていたとのことです。

 筆者は、こうした「座敷わらし」の伝説の中には、実はレビー小体病の症例が含まれているのではなかろうかと考察しています。その共通点として、暗い環境での幻覚、睡眠中の触覚体験、寝床の枕や布団の散らかりなどを挙げています。

 疑問に思ったのは、座敷わらしの逸話が、もし、レビー小体型痴呆症のうちの幻覚症状を示すものであるなら、座敷わらし伝説が東北に多いのはなぜなのかな?(西日本などにも似たような話はあるのかもしれませんし、私が知らないだけかもしれませんが。)、と思ったわけです。

 しかし、患者さんの症状から、疾患とこのような民俗学的な背景との類似点を想定するという筆者の心の豊かさと科学者(医学者)の目(夢がないじゃないかとの意見もありますが)に敬意を覚えたわけです。

 

慢性胃炎と機能性ディスペプシア

 こんにちは。東望大久保医院の大久保 仁です。ブログが医療のことに偏り、やや堅苦しいのではないかと思ったりしていますが、月曜日に書きかけていて、急に患者さんが来られ途中で書きやめていたので、今回、それを載せることにしました。ご勘弁ください。

 梅雨入りとの報告とはうらはらに、お天気が続いています。気持ちのいい晴れ空は嬉しい反面、作物の生育にはこの季節、雨が少ないのは心配にもなりますね。

 胃部不快感を症状としてこられた方がいました。まだ特に高血圧症や糖尿病などの成人病はない方でしたし、上腹部の症状も明らかな痛みというよりも朝方の不快感、胸焼けはひどくない、なんとなく食べたものが降りていかない感じとのことでした。

 このような疾患として、昔からよく慢性胃炎と保険病名をつけて、「とりあえず」いくつかの胃薬の中からみつくろって処方する(胃潰瘍の薬であるガスターなども使用していましたが、近年は胃カメラなどで胃潰瘍の診断が得られないと保険診療では認められにくい)ことをやっていました(私は嫌いでしす)。確かに、それはそれで、患者さんの症状が取れることもあり、結果オーライになることもあります。しかし、私はこのような症状をきたす疾患として、やはり50歳以上の方では胃がんを見落としたくないですし、胆石、膵臓疾患もきちんと否定しておきたい、と思い診療をしてきました。消化器を専門にして来ますと、そのような系統的な診断を怠ったために経過が良くなかった患者さんを多く見てきましたので、やはり系統的な診断過程が重要と思っています。

 このような症状を示す疾患として機能性ディスペプシアという疾患があります。胃などの上部消化管にカメラで見ても潰瘍などがないにもかかわらず、腹痛などが生じる疾患で、消化管運動機能などに問題がある場合が多いです。消化管の運動機能障害としての類似疾患として過敏性腸症候群などもあります。随分前から病気の名前はあるのですが、なかなか馴染みとなっていない病気です。

 胃やその周辺と思われる部位の症状を呈する人で、これまで胃カメラを飲んだことがない人には、胃カメラを1度はおすすめ(しかし、多くの人が飲むときにきつい、もしくはきついだろうということで同意する人は少ない、もし飲むという人がいればその人は胃がんを恐れている人が多い)しています。

 現在、クリニックではまだ内視鏡検査ができない現実があり、歯がゆい思いをしています。この方には症状を軽減させるお薬を1週間くらいまず出してみて、「症状の経過を見て、胃カメラが必要かどうか検討しましょう。」とお話をさせていただきました。

乳腺・内分泌(甲状腺)科☆休診のお知らせ

7月14日(金曜日)・15日(土曜日)

大久保 仁 医師、学会出席のため上記の日時、休診させていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願いいたします。
尚、外科は通常どうり診療しております。婦人科は14日はお休みですが、15日(土曜日)は通常どうり診療いたしております。

イノヴェーション、ブレイクスルー

 こんにちは、東望大久保医院の大久保仁です。ついに梅雨入りとなりました。

 イノヴェーション(Innovation)、そのまま訳すと革新。ブレイクスルー(Breakthrough)、行き詰まり状態の打開、科学技術が飛躍的に進歩すること。経営者とか、現東京都知事などが好きそうな言葉だろうなと思います。

  American Society of Clinical Oncology (ASCO) が今年もシカゴで開催されました。ASCOはがんや腫瘍学についてのもっとも大きな学会の一つで、毎年、アメリカのシカゴでこの時期に開催されています。乳がんの分野では細胞周期阻害薬の一つで、サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬という、長い難しそうな名前ですが、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬と同様に最近、非常に期待されている薬で、その中のアベマシクリブと乳がんのホルモン治療薬であるフルベストラント(注射薬)との併用療法の臨床試験、MONARCH-2試験(乳がんを専門としている医師からは非常に注目されていた試験と思います)の結果が報告されました。

 MONARCH-2試験の内容はこのようなものです。ホルモン陽性/HER2陰性進行乳がんでそれまでに内分泌療法を受けて、その後進行した患者さんが対象の試験です。全部で669名がこの試験に参加されたそうです。参加者はアベマシクリブ+フルベストラントの療法の治療を受けた群(A+F群)とプラセボ(偽薬)+フルベストラント群(P+F群)に2:1に無作為に割り当てられました。

 主要評価項目(一番目に評価する項目)は、病気が悪くならないで生存している期間(無増悪生存期間:PFS)、副次的評価項目(その他の項目)として、客観的奏効率(どのくらい薬が効いたか)、安全性はどうだったか、副作用はどうだったかでした。

 結果:19.5ヶ月間の観察期間(中央値)で、PFSは、A+F群:16.4ヶ月、P+F群:9.3ヶ月で、A+F群の方が44.7%分、病気が悪くならないで生存している期間が長くなったということです。もともとこの新しい治療法で30%くらい良くなると仮定していたとのこと、かなりの改善度ではないでしょうか?奏効率は、A+F群:48.1%、P+F群:21.3%。副作用は、A+F群で多く見られた副作用は、下痢、好中球減少、悪心、疲労感とのことでした。

 少し前に話題になった新薬として、悪性黒色腫や非小細胞性肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボがあります。がん治療のイノヴェーションや‼︎と言われ、値段がめちゃくちゃ高かったり、わけわからんまま値段が半分になったり、週刊誌などで「肺がんが消えた、魔法の薬」などの記載があったり、とこの手の薬は話題に事欠きません。免疫チェックポイント阻害薬はすでにオプジーボの他、キイトルーダ、ヤーボイなど複数の薬が出ていますし(オプジーボは転移・再発胃がんにも申請しているようです)、今後もどんどん出てきます。

 このような新薬の情報の渦の中で、患者さんは「何を信じればいいのかわからん」、というお気持ちだと思います。私たち医師はできる限りその情報の真偽について確認していく責任があります。証拠に基づいた医療(Evidenced Based Medicine:EBM) が大切だ、と。

 私が医師になった当時、免疫療法は元々の免疫を賦活化して用いるから副作用の少ない治療だよ、できたら素晴らしいね、と言われたものでした。しかし、長い間、免疫療法はなかなかうまく開発されませんでしたが、この免疫チェックポイント阻害薬は免疫療法のブレイクスルーとして期待されています。確かに、臨床試験の結果を見ると従来の標準治療と比べて良い結果が出ているものもあります。多くの人たちがきちんと研究し、臨床試験を行って、薬として使うことができるようになりました。副作用ももちろんあります。それも思いがけないものも。決して「夢の薬」などではなく、医師と患者さんがそのメリット、デメリットを話し合って使っていくという従来のお薬と全く同じであろうと考えています。

閉経とホルモン補充療法と乳がん治療

 みなさま、こんにちは、東望大久保医院の大久保 仁です。6月に入りました。先週いっきに蒸し暑くなってきましたので、こりゃ6月になって早々梅雨に入るのかと思いきや、今日も午前中はなかなかお天気で、今日、明日、蛍見物に行こうと考えています。

 こっちに帰ってきて、ご婦人の種々の症状に対する治療薬として漢方処方が少し多くなる傾向がありましたので、少し前に出ていたThe Lancetの「閉経」に関する総説をさらってみました。著者はHeidi D Nelsonという先生でした。「ハイジ」って名前、すごいですねえ。

 閉経の定義ですが、「無月経が12ヶ月続いた場合」ということになっています。乳がんの治療では、閉経前乳がんの内分泌治療でタモキシフェンという薬があります。エストロゲン受容体にエストロゲンの代わりにくっついて、エストロゲン受容体(ER)からの乳がん腫瘍細胞への増殖シグナルをブロックするという仕組みになっています。一方、「閉経」後の乳がんの内分泌治療はアロマターゼ阻害薬という薬を用います。閉経後では卵巣では積極的にエストロゲンを作れませんので、体の中のエストロゲン値は低いのですが、なんと副腎という腎臓の上にちょこんとついている内分泌臓器からコレステロールなどを材料に、副腎皮質ホルモンを作り、それを男性ホルモンに転換し、さらに男性ホルモンを、脂肪細胞からでるアロマターゼという酵素が、エストロゲンに変えてくれるのです。

 乳がんの細胞の約7割を占めるER陽性乳がん細胞は、エストロゲン刺激で細胞増殖をするという性質を持つので、この少ないながらのエストロゲンを上手に利用して増殖していきます。よって、閉経後に肥満している=アロマターゼ分泌多いとなり、肥満は閉経後乳がんのリスクファクターとなるとされています。

 閉経で生じる更年期障害の症状として、汗を掻く、手足が熱い(Hot-flash)、関節が痛い、筋痛が生じる、など人によって差異はありますが、エストロゲン欠乏状態に体が慣れておらず生じてきます。エストロゲンが欠乏しているために生じていることなので、治療としては、その足りないエストロゲンを補う治療というのがまず考えられる治療となり、それがホルモン補充療法というわけです。エストロゲン単体で補充してしまうと子宮内膜増殖作用が強く出て、子宮内膜がんの原因になるのでこれを抑制する目的(子宮を取ってしまった人は相対的にいらないが)で、通常エストロゲンとプロゲステロンを併用します。 

 その他の副作用としては、深部静脈血栓症や心・脳血管障害などがありますし、乳房痛なども生じる可能性はあります。しかし、精神症状改善、肌の状態は良くなる、血管運動神経症状改善など多くの利点があるので、日本以外の国ではかなりの人にホルモン補充療法が行われ、その恩恵にあずかっています。また、ホルモン補充療法と乳がんの関係では、明らかなリスクだ、という研究と、差はなかったという研究があり、まだ本当の決着はついていません。

 医療では「リスクとベネフィットと天秤にかけて考える」ということが実際には行われているのですが、表立って「これこれこういう副作用がありますが・・・。この薬どうします?使います?やめときます?」と言われると、我が国では二の足を踏んでしまう方が多いと思います。「リスクとベネフィットを天秤にかけて医療行為を考える」という考え方がまだまだ浸透していない我が国では、ホルモン補充療法は積極的には行われていない代わりに、プラセンタ、エトセトラなど、なんとなく補充を、という非医療系のものは流行っている、という風潮ではなかろうか〜と感じている今日この頃です。