イノヴェーション、ブレイクスルー

 こんにちは、東望大久保医院の大久保仁です。ついに梅雨入りとなりました。

 イノヴェーション(Innovation)、そのまま訳すと革新。ブレイクスルー(Breakthrough)、行き詰まり状態の打開、科学技術が飛躍的に進歩すること。経営者とか、現東京都知事などが好きそうな言葉だろうなと思います。

  American Society of Clinical Oncology (ASCO) が今年もシカゴで開催されました。ASCOはがんや腫瘍学についてのもっとも大きな学会の一つで、毎年、アメリカのシカゴでこの時期に開催されています。乳がんの分野では細胞周期阻害薬の一つで、サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬という、長い難しそうな名前ですが、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬と同様に最近、非常に期待されている薬で、その中のアベマシクリブと乳がんのホルモン治療薬であるフルベストラント(注射薬)との併用療法の臨床試験、MONARCH-2試験(乳がんを専門としている医師からは非常に注目されていた試験と思います)の結果が報告されました。

 MONARCH-2試験の内容はこのようなものです。ホルモン陽性/HER2陰性進行乳がんでそれまでに内分泌療法を受けて、その後進行した患者さんが対象の試験です。全部で669名がこの試験に参加されたそうです。参加者はアベマシクリブ+フルベストラントの療法の治療を受けた群(A+F群)とプラセボ(偽薬)+フルベストラント群(P+F群)に2:1に無作為に割り当てられました。

 主要評価項目(一番目に評価する項目)は、病気が悪くならないで生存している期間(無増悪生存期間:PFS)、副次的評価項目(その他の項目)として、客観的奏効率(どのくらい薬が効いたか)、安全性はどうだったか、副作用はどうだったかでした。

 結果:19.5ヶ月間の観察期間(中央値)で、PFSは、A+F群:16.4ヶ月、P+F群:9.3ヶ月で、A+F群の方が44.7%分、病気が悪くならないで生存している期間が長くなったということです。もともとこの新しい治療法で30%くらい良くなると仮定していたとのこと、かなりの改善度ではないでしょうか?奏効率は、A+F群:48.1%、P+F群:21.3%。副作用は、A+F群で多く見られた副作用は、下痢、好中球減少、悪心、疲労感とのことでした。

 少し前に話題になった新薬として、悪性黒色腫や非小細胞性肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボがあります。がん治療のイノヴェーションや‼︎と言われ、値段がめちゃくちゃ高かったり、わけわからんまま値段が半分になったり、週刊誌などで「肺がんが消えた、魔法の薬」などの記載があったり、とこの手の薬は話題に事欠きません。免疫チェックポイント阻害薬はすでにオプジーボの他、キイトルーダ、ヤーボイなど複数の薬が出ていますし(オプジーボは転移・再発胃がんにも申請しているようです)、今後もどんどん出てきます。

 このような新薬の情報の渦の中で、患者さんは「何を信じればいいのかわからん」、というお気持ちだと思います。私たち医師はできる限りその情報の真偽について確認していく責任があります。証拠に基づいた医療(Evidenced Based Medicine:EBM) が大切だ、と。

 私が医師になった当時、免疫療法は元々の免疫を賦活化して用いるから副作用の少ない治療だよ、できたら素晴らしいね、と言われたものでした。しかし、長い間、免疫療法はなかなかうまく開発されませんでしたが、この免疫チェックポイント阻害薬は免疫療法のブレイクスルーとして期待されています。確かに、臨床試験の結果を見ると従来の標準治療と比べて良い結果が出ているものもあります。多くの人たちがきちんと研究し、臨床試験を行って、薬として使うことができるようになりました。副作用ももちろんあります。それも思いがけないものも。決して「夢の薬」などではなく、医師と患者さんがそのメリット、デメリットを話し合って使っていくという従来のお薬と全く同じであろうと考えています。