HBOC (遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)

こんにちは、大久保 仁です。昨日、長崎市内のホテルでHBOC (乳がん・卵巣がん症候群)の勉強会がありましたので参加してきました。

HBOCってご存知ですか?

2013年にアメリカの有名な女優さんの(元の旦那さんは有名なブラッド・ピット)アンジェリーナ・ジョリーが、乳がんのリスクを高める遺伝子変異が見つかったことで、予防的な両側の乳房切除術(乳房切除と同時にインプラントによる乳房再建術)を受けたことが報道され、一気に有名になりました。その後、彼女は予防的卵巣・卵管摘除術も受けました。HBOCはBRCA1、BRCA2というがん抑制遺伝子の遺伝子変異により、一生のうちで通常の人より乳がん、卵巣がん(その他、乳がんや卵巣がんより少ないが前立腺癌、膵癌のこともある)になる確率が明らかに高くなる、もしくはより若年でがんを発症するという遺伝性疾患です。

講演は長崎大学腫瘍外科の松本恵先生、産婦人科の三浦清徳先生、遺伝カウンセラーである佐々木規子先生のお三方が、それぞれ、乳がん、卵巣がん、そして遺伝カウンセリングについて講演されました。松本恵先生は、乳がん学会、乳腺関連の研究会でよく存じている先生で、とてもわかりやすく、このHBOCについての総論的なお話をしてくださいました。長崎大学でこのようなHBOCなどの疾患に対しての臨床的な取り組みができるようになっていること、また、産婦人科の三浦先生は、家系図を作ってサーベイランスを行なった後(HBOCなどが疑わしい症例を探すこと)、実際に2名の方が予防的卵巣・卵管摘除術を長崎大学で行なったことなどお話しされました。

このような遺伝性疾患の診断や治療を行う中で、もっとも大変なのは、患者さん、ご家族(あるいはご血縁の方)に対するカウンセリングですが、これに関しては遺伝カウンセラーの佐々木規子先生が、丁寧に時間をかけて、患者さんと会話をしながら、素晴らしいお仕事をされているのがよくわかりました。学会や講演会で私はいつもほぼ一番前もしくは前の方の席に座るのですが、佐々木先生は私が大学病院で仕事をしていた時、一緒にお仕事をさせていただいた方だったことに私は気づきました。佐々木先生は私の顔を覚えてくれているかわかりませんが、昨日は残念ながらそのことはお伝えせず帰りましたので、今度、お会いしたときはそうお伝えしようと思いました。

HBOCは消化器外科に加え、乳がんを自分の専門にしようと思った2004年ごろから注目していた疾患(病態)であり、佐賀病院勤務の時は佐賀大学の分子生命科学講座教授で長崎大学第2外科の先輩である副島英伸教授に日本人類遺伝学会に推薦状を書いていただき、臨床遺伝専門医の資格を取りたいと考えているくらいなので、これから乳がんを診断、治療する場合、避けては通れない分野と考えます。

もともと「遺伝」という言葉は1905年にイギリスの遺伝学者ウイリアム・ベイトソンという人が作った造語であるgeneticsという語からきています。geneticsはheredity(遺伝継承みたいな意味)とvariation(多様性と訳すのが適当でしょうか)の科学である、と定義されており、「親から伝わること」、ともう一つ「他と違うこと=多様性」という意味がその本質にあります。

日本では、最初の導入が動植物分野であったことからか、民族的なことからか、遺伝性疾患というと「親から悪い病気が伝わる」のような捉え方となり、うまくイメージできない、もしくは悪いイメージばかりではないかと思います。今後、遺伝子診断はあっという間に実臨床に取り入れられて行くことになると思いますが、その時、一般の方が嫌悪感を抱かず、上手に自分の治療に取り入れていただけるように(得のこともあれば、損になることもある)、このような遺伝医学の知識を取り入れ、うまくお話しできるように努力していこうと思っています。