オンコタイプDX

 寒くて白い朝となりました。東望大久保医院の大久保 仁です。歩いてクリニックまで来ていたら、かなり危ない車が何台かいました。事故がないことを祈ります。

 オンコタイプDXという検査の名前、聞いたことはあるでしょうか?

最近は、遺伝子診断の技術がすごいスピードで加速し、さらに医療の分野にもその影響は、いい意味でも悪い意味でも増して来ました。

 オンコタイプDXは、乳がんの予後(そのがんに罹った方の将来を予測する指標で〜年などと表す)の予測ができる遺伝子検査です。

 遺伝子検査というと、一般の方は重いイメージを持つ方もいると思います。遺伝子検査には親の遺伝子によりいろんな病気が発症する生殖細胞の遺伝子を調べる検査(乳がんでは、アンジェリーナ・ジョリーさんが行った以前、このブログでも紹介した遺伝性乳がん・卵巣がん症候群など)と、オンコタイプDXのような個人の乳がんなどの体細胞遺伝子の異常を調べる検査は、名前は似ていますが異なる検査です。よって、オンコタイプDXに関しては、遺伝子検査ですが、自分の子供などに遺伝するようなことを調べる検査ではありません。あくまでその人自体にできたがんの性質を調べる検査です。

 このオンコタイプDXは、日本以外の通常先進国と言われている国では、一般的に行われている検査で、保険医療として認められている検査です。認められない理由は、費用が実費で約40万円と高価な検査だからです。日本乳癌学会からはもう数年前から、政府に保険診療に認めて欲しい医療の筆頭としての要望を出していますが、未だ保険で認められていません。日本とそれ以外の国では医療制度が非常に異なりますので、一概に良い、悪いが言えない部分もありますが、ドラッグ・ラグの問題(かなり改善されて来ていますが)なども含めて日本の医療制度をどのようにして行ったらより良いものになる(病気の人に貢献できる制度として)か、考えていかなければならない問題だと思います。

 このオンコタイプDXは現在、なんのために用いられているかと言いますと、ホルモン受容体陽性乳癌の人が術後、ホルモン治療(内分泌治療)のみでいけるのか、それとも抗がん剤治療(術後補助化学療法)をホルモン治療に加えて行った方が再発を抑えられるのかを、再発率または死亡率として予測できるからです。大規模な臨床試験もありますし、しかも日本人のデータもきちんとその中に含まれていて、欧米での結果と変わらない結果が出ています(人種に左右されない)。

 私がこれまで勤務した光晴会病院、国立病院機構佐賀病院では数は多くありませんが、オンコタイプDXのお話をさせていただき実際に行って来ました。

 普通であれば抗がん剤治療をしていたであろう人(多くはリンパ節転移が1個、2個あった若年の方)のオンコタイプDXでの再発リスクが低く、抗がん剤の上乗せ効果が低いと出たために抗がん剤治療をせず、ホルモン治療のみとした患者さんもいました。一般的に、これまでなら抗がん剤治療をしていたであろう人でオンコタイプDXのおかげで抗がん剤治療(化学療法)を行わなくても再発リスクは変わらないという結果が出たため、術後の抗がん剤治療(化学療法)を行わなかった人が2〜3割程度いることがわかっていますし、通常ならこれは抗がん剤治療行わなくても良いかもしれないと考える人のうちでもある一定の数、予想以上に再発リスクが高く出て、きちんと抗がん剤治療を行えた人もいるという結果が出ています。

 低リスクの人は自信を持ってホルモン治療のみの選択が行える、高リスクの人も、なぜ術後に抗がん剤治療が必要か、抗がん剤の治療は辛い治療ではありますが、自分の治療の動機付けが、科学的根拠(エビデンス)を持って行えますので、私が担当した方でオンコタイプDXを行った結果として抗がん剤治療(補助化学療法)を行った方でさえもオンコタイプDXを行って良かった、と言われていたのが印象に残っています。

 オンコタイプDXの問題は中間リスク(再発リスクはホルモン剤のみで良い再発リスクが低い低リスク、低リスクと高リスクの中間、ホルモン治療だけでなく化学療法を追加した方が良い高リスクの3群に分けています。)の人をどうするか、ですが、これに関してはTAILORx試験という、中間リスクの人をどうするかという臨床試験が行われています。

 オンコタイプDXと同じようながんの体細胞遺伝子の検査が、他にヨーロッパ中心で行われているマンマ・プリント、PAM50、日本からは大阪大学の野口教授らが開発したCurebest 95GC Breastなど続々出て来ています。

 まさしく、時代はTAILOR・メイド治療(個別化治療)に突入したと実感します。